日本でマイナースポーツの体操が、世界トップクラスに君臨できる理由

国内でメジャーだからというだけで、世界でも強いとは限らないのがスポーツ。

たとえば、サッカーは日本では野球と肩を並べるほどのメジャースポーツに育ちました。子供が将来なりたい職業として、「プロサッカー選手」は相変わらず人気は高いです。日本代表の試合のスタジアムは満席になるし、試合結果が翌日のスポーツ新聞の1面を飾ることも珍しくないです。

でも、世界の強豪かというと、必ずしもそうではありません。

逆に、体操は日本ではけっしてメジャーな存在ではありません。いちおう国技とはされていますが、オリンピックでもない限り、テレビで見る機会はほとんどない。でもですよ?日本って強いですよね?ロンドンオリンピック個人総合では内村 航平選手が金メダリストですし、団体チームも毎回メダルが期待されます。

メジャースポーツではないのに、なぜ日本は常に強いのか? 競技人口だって多くないのに、安定して優秀な人材を輩出できる理由はどこにあるのか? もしかして、門外不出の秘伝のトレーニングを積んでいるのか?

理由が検討つかなかったので、相模原市のにあるNPO法人SRCのSRC体操クラブ、鈴木コーチにお話を伺いました。

SRC体操クラブ

体操は空中のスポーツ

体操ってのは、技を繰り出しているとき常に空中に浮いているスポーツです。空中にいる間に繰り出す技の応酬で競う、ちょっと特異な競技なんです。

体操は他の競技にくらべて、練習時間がものすごく多いと聞きました。どれくらいの時間を費やしているんですか?

だいたい週6回。私達のクラブは週5回、次の週は6回というサイクルでやっていますが、毎週6回するチームもありますね。練習時間は多くなる傾向で、なかなか回復時間が持てないのが悩みの種ではあります。

体操って、生身の身体で飛んだり跳ねたり、自分の体重を支えたりと身体を酷使していますよね?なのにそんなに練習して大丈夫なんですか?

体にかかるダメージはっこうありますよ。なぜこんなに練習するかというと、ものすごい数の技を覚えなくちゃいけないからなんです。たとえば、男子では「床、あん馬、つり輪、跳馬、平行棒、鉄棒」の6種目あって、ひとつひとつの種目でざっと20ほどの技をひとつの演技で行うんですね。単純計算で100以上の技を身につけていないと、選手として戦えないのです。

100以上の技・・・週6練習もナットクな気がしてきました

イメージと実際の身体の動きをすりあわせていくために、なるべく間をあけずに身体に叩き込まないといけない。しかも、難易度の高い技はベースとなる技を3つも4つもマスターしているさらにその上に"ひねり"等の別の技を積む必要があります。そう考えると、途方も無い練習量が待ち構えているってことが想像できるんじゃないでしょうか(笑)。
鈴木コーチ

体操選手が柔軟性があるのはなぜ?

体操選手って、常軌を逸した柔軟性をもってますよね?あれって天性なんですか?それとも、修練の結果なんですか?

後者であることが多いです。最初はほとんどの選手は身体が硬いですね。体操において柔軟性・・・というか、「関節の可動域」と表現するのが正確なんですが、可動域が大きいほうが競技場有利です。なぜなら、可動域が大きいほど、演技が雄大で大きく見えます。また、可動域が広いと、回転運動でかかるGによるケガもしにくくなります。

可動域を広げるって・・・医学的に問題ないんでしょうか?

整形外科医に言わせると、「やってはいけないレベル」でしょうね(笑)。演技を美しく見せるために、選手たちは痛い努力をしながら広げていくんです。たとえば、彼(小学3年生)も体が硬かったんですが、肩の関節がこういった曲がり方をするくらいまでには広がりました。

鈴木コーチ
鈴木コーチ

えええええええ、両肩がありえない方向に曲がってますよっ。見ているのが怖い...

これでも硬い方で、まだ広げることは可能ですね。

メディアが日本を質問攻めにするのはなぜ?

日本代表が国外の大会に参加すると、各国のメディアは日本に取材に来ます。なぜかと言うと、日本が強いからなんですが、聞いてくることは、「なぜ日本は練習時間が他国よりも短いのに、世界で勝つことができるのか?」ということ。

日本だって週6日練習しているから、練習時間は決して短くないのでは?

週6とはいえ、1日あたりの練習時間はせいぜい3~4時間程度ですからね。学校が終わって放課後にクラブに行き、夕方から20~21時までなので、練習量はめちゃくちゃ多いわけではないんです。たとえば中国やアメリカは専門のアカデミーがあり、全寮制の施設で文字通り朝から晩まで練習を積んでいます。

設備も優れている?

ええ、日本よりもずっと立派な施設で長時間練習できる環境が整っています。にも関わらず日本は結果を出すものだから、メディアは「なぜだ?日本はどんな特別な練習をしているんだ?」と質問攻めにしてくるわけですね。

SRC体操クラブ

日本が世界で勝つ理由

なぜ、日本は常にメダルが狙えるくらい強いんですか?ナイショの秘策があるんですか?

ナイショのトレーニングはありませんし、私も正解は知りません(笑)。ただ、私なりに考えているのは、日本人ならではの特性が体操という競技にプラスに作用しているからだと思うんです。

日本人の特性?

日本人は「耐えること」を美徳とし、指導者の指示に「素直に従う」ことをよしとする特性があります。これがあらゆるスポーツでプラスに作用するかどうかは別にして、こと体操に限ってはよい影響をもたらすような気がしています。体操は単調でときに退屈、さらには肉体的苦痛を伴う修練が求められるんですが、これをやりきるには相当な忍耐力を必要とします。

国内ではマイナースポーツであるにもかかわらず日本代表が安定して強いのは、日本人の忍耐強さや勤勉さといった国民性が発揮しやすいスポーツだからってことですね

私はそう考えています。
SRC体操クラブ

日本代表は他国よりもチームの絆が強い

ところで、忍耐力というのは、メンタルとフィジカル、両方ですか?

そうです。日本人は忍耐力があって勤勉。さらに、指導者に素直に従うんですね。外国人選手の中には、コーチからのアドバイスに対して【WHY?】と尋ねて納得しないと練習しない選手も少なくないですから(笑)。

なるほど

あと、日本代表は他の国よりもチームの絆が強いと思います。団体戦でチームメイトが競技をしているとき、控えている選手たちは一緒にガッツポーズしたり、激励を送っています。そういう光景、TVで見たことありますよね?

ええ、「よっしゃー」ってやってますね。それって当たり前なのでは?

他国だと、仲間の競技を見ずに携帯電話をいじったり、お菓子を食べている選手もいますよ。

臨機応変なプレーは求められない

あとですね、体操ってサッカーと違って相手とぶつかったり、敵に邪魔されたりする接触プレーがありません。よって、体格差はハンデにならないんです。あと、競技の途中で臨機応変に対応することがないスポーツです。

臨機応変にプレーしない?どういうことですか?

たとえばサッカー等の対人競技であれば、常に変わり続ける状況下で臨機応変に、その場の判断でクリエイティブなプレーをするのが良い場合もありますよね。でも、体操にはそういったプレーは不要です。体操とは、いかに脳内のイメージと実際の体の動きの誤差をなくしていくか、正確にイメージ通りに体で動きを再現できるかが大切なんですよ。勝手に技を変えるなんて、減点対象でしかないわけです。

臨機応変なプレーは求められない・・・ですか。体操って、かなり特異なスポーツなんですね

事前に決めておいた技を、どれだけ正確に再現できるかどうかで勝敗が決まる...のが体操なんですよ


取材を終えて

体操はけっしてメジャーなスポーツではないにもかかわらず、なぜ日本代表が安定して高い結果を出せるのかが不思議でした。 日本人の忍耐力、我慢強さがこんなところで発揮されていたのかと気付かされて、少しうれしくなりましたね。欲を言えば、クリエイティビティが発揮されるスポーツでも、こういった日本人ならではの底力が発揮されるといいですね。

取材協力